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過労死企業の情報公開を求めて 弁護士 足立賢介(民主法律時報441号・2009年3月)

弁護士 足立賢介

 平成21年3月5日、過労死家族の会の寺西笑子さんを請求人として、大阪過労死問題連絡会のメンバーによって大阪労働局に対して2つの情報公開請求を行った。
 一つは、①過労死・過労自殺を生じさせた企業名の公開を求めるもので、もう一つは、②是正勧告を行った事案の公開を求めるものである。
 当初、①については、「大阪府内に本社を置く下記企業につき、大阪労働局管内の各労働基準監督署長が平成14年4月1日から同21年3月5日までの間に、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)に係る労災補償給付の支給請求に対して支給決定を下した事案につき、その処理状況を把握するために作成している処理経過簿のうち、被災者が所属していた事業場名(法人名のみ)、労災補償給付の支給決定年月日」を対象として、大阪府内に本社を置く企業のうち、従業員数が一万人を超える企業を具体的にその企業名を列挙して請求していたが、請求に行った際に、情報管理専門官から、当該請求が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第8条の「存否応答拒否」に該当して公開できない可能性がある旨の指摘を受けた。
そこで、上記具体的企業名を挙げての請求から、「従業員数一万人以上の企業」という内容に変更して請求することになった。
 また、②については、「大阪労働局が保管している、大阪中央労働基準監督署長が平成15年4月1日から同21年3月5日までの間に、同労働基準監督署管内の事業場に対して労働基準法及び労働安全衛生法違反について是正勧告を行った事案についての是正勧告書並びに是正報告書」を対象としてその公開を求めたが、是正報告書の別添資料が膨大な量になってしまう旨の指摘を受けた。
 そこで、是正勧告の時点で従業員数が1万人以上の企業に対する是正勧告に限定し、かつ、期間も平成18年度・19年度の2年度分に限定する形に変更して請求することになった。
 これらの請求は、過労死事件で労災認定を得て、更に損害賠償請求訴訟で勝訴しても、過労死・過労自殺を生み出した企業の体質自体には何らの変化もなく、過労死・過労自殺を生み出したことに対する認識を改めることも反省することも見られないという現状のままでは、企業に真に過労死・過労自殺を生じさせたことの責任を理解させることができているとは言えず、過労死・過労自殺はいつまでたってもなくならないという現状を打破すべく行ったものである。
 企業に真に自らの責任を理解させるためには、損害賠償によって経済的制裁を与えるだけでは不十分である。当該企業において過労死・過労自殺が生じたということや長時間労働が常態化した劣悪な労働環境下に労働者をおいているということが白日の下にさらされることで社会からの痛烈な批判を受けるのでなければ、企業が自らの責任を真に理解し、労働時間管理等の再発防止策を講じることは期待できないのである。
 したがって、なんとしてでもこれらの情報の公開を受けて、過労死・過労自殺を生じさせ、若しくは生じさせるおそれのある労働環境下で労働者を働かせている企業を社会の批判の下にさらすべく、本件請求によって各情報の公開を受けられなかった場合には、最終的には情報公開訴訟を提起する予定である。
 この活動は、松丸正弁護士による問題提起を受けて、立野嘉英弁護士に積極的に動いていただく形で実現したものである。本来であれば、私も立野弁護士と共に動き回る役回りを仰せつかっていたにもかかわらず、立野弁護士の素早い対応に甘えて任せっきりになってしまったことをただただ反省するばかりである。情報公開訴訟に至った際には、私も他のメンバーと共に過労死・過労自殺のない社会の実現に向けた更なる一歩を歩み出すため、本気で訴訟に取り組むことを決意して本件報告を終える。

(民主法律時報441号・2009年3月)

2009/03/01