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「過労死・サービス残業をなくしいのちと健康を守るたたかい」 弁護士 佐藤真奈美(民主法律263号・2005年8月)

弁護士 青砥洋司

一 過労死・サービス残業をめぐる情勢
1 長時間労働・サービス残業と過労死・過労自殺の激増
 リストラによる職場の少人数化,厳しいノルマ,解雇への不安などから,際限のない長時間労働・サービス残業が横行している。そのような状況の中,過労死・過労自殺が激増している。
 このような情勢を反映し,過労死110番や労働相談センター等へ数多くの相談が寄せられているが,その中でも,昨今,職場でのストレス等を原因とする,精神疾患に関する相談が急増している。法律問題だけでは解決できないケースも多く,今後,相談員において,このような相談に対応できるような体制をとることが必要といえよう。

2 労災申請・認定件数の大幅な増加
 先日6月17日の厚生労働省の発表によると,04年における精神障害等の労災補償件数について業務上と認定された件数は,130件であり前年度に比べ22件増加している。

   ◆脳血管疾患及び虚血性心疾患等(「過労死」等事案)の労災補償状況(件)

    H12年度 H13年度 H14年度 H15年度 H16年度
脳・心臓疾患 請求件数 617 690 819 742 816
認定件数 85 143 317 314 294
うち死亡 請求件数 319 335
認定件数 45 58 160 158 150

   ◆精神障害等の労災補償状況(件)

    H12年度 H13年度 H14年度 H15年度 H16年度
精神障害等 請求件数 212 265 314 447 524
認定件数 36 70 100 108 130
うち自殺
(未遂を含む)
請求件数 100 92 112 122 121
認定件数 19 31 43 40 45

3 労働行政の積極的活動
 現行の厚労省「過重労働による健康障害防止のための総合対策」で、「残業が45時間を超えた場合、産業医による健康管理の助言指導」としていいるのに対し,労働安全衛生法の改正案では過重労働の面談指導について、「残業が月100時間を超え」「本人が申し出」た場合を明記することにより内容を大きく後退させている。このため厚生労働大臣に労働安全衛生法改正について申し入れをした。

4 裁判闘争における前進
 不支給処分の取消しを求める行政訴訟,企業に損害賠償を求める民事訴訟でも,勝訴判決が相次いでいる。
 関西でも,ホテル料理長過労死事件(和歌山地裁平成17年4月12日判決),伏見飲食店店長過労自殺事件(京都地裁平成17年3月25日判決)など勝訴が続き,また新しい事件も提訴されている。

二 大阪における取り組み
 連絡会,オンブズマン,家族の会,労働健康安全センター,個別事件の支援の会が大きなネットワークとなり,運動が相乗的に大きく広がっている。特に,昨年来広がりつつあった司法書士・社労士とのネットワークが,大きな原動力となっている。

1 平成17年9月10日課長・係長サービス残業110番
 課長、係長という役職名がついたということで、「管理職」だとして、残業代が支給されないケースが横行している。法的には、全くのあやまりで、「管理監督者」とは経営者と一体となって裁量をもって仕事をしているものを指し課長、係長は、「管理監督者」とは到底いえませんこのような問題意識から、上記110番を実施し一斉提訴も行いたいと考えている。
 この取り組みには,社会保険労務士、司法書士の方を含め多くの相談員の登録が期  待されている。

2 労災保険の民営化についての取り組み  
 平成15年7月に,政府の総合規制改革会議のワーキンググループで,労災保険の民間開放が提案された。このような提案は,労働災害にかかわる労働者の権利保障を揺るがすことになるものであり,提案後,全国的に多くの意見が出されたが,大阪ででも,全大阪労働組合総連合,全労働相労働組合大阪支部,大阪労災職業病対策連絡会,大阪労働権公安全センター,民主法律協会,大阪過労死問題連絡会,大阪過労死を考える家族の会連名で,大阪労働局長に申し入れを行うなど,早期から積極的な活動を行った。
 このような活動の影響から,平成15年末に出された答申では先送りされた格好だが,「今後の課題」として明記されるなどしており,引き続き取り組んでいくべき課題となっている。

3 新人ガイダンスの実施
 昨年11月11日,登録したばかりの新人弁護士向けに,過労死労災認定手続き等のガイダンスを行い,修習生なども含め全体で23名が参加した。
 ガイダンスでは勉強会を行い,弁護士として遺族らとどのように接していくべきか等,通常の事件活動に限らない弁護士の役割について議論され,有意義なものとなった。新人弁護士からも,普段あまり考える機会のないテーマで勉強になったとの感想が寄せられるなど,好評であった。

4 権利討論集会分科会(05年2月12・13日)
 例年と同じく,「いのちと健康を守るために」というテーマで分科会を担当した。1日目33名,2日目28名が参加し,参加者の構成も,労働安全衛生を担当する労働組合の方・過労死家族の会の方・社労士方等など,幅広い層から参加があった。
 1日目は,「労働時間について考える」と題して,池田直樹弁護士の講演会及びそれに基づく議論を行った。2日目は,36協定をテーマに,労働基準監督官の佐光氏氏の講演会及びそれに基づく議論を行った。2日とも,参加者各々の立場から様々な意見が出され,今後の活動に向け大いに刺激を受けられる,有意義な議論となった。

5 公共交通機関の過重・過密運転をを考えるシンポジウムの実施(6月15日)
 ここ数年,医療現場,金融現場、学校と,様々な労働分野ごとでの過重労働を考えるシンポジウムを実施してきていたが,今年は公共交通機関を取り上げることにし,「これで安全は守れるのか!?~公共交通機関の過重・過密運転を考える」と題し,パネリストに安部誠治 関西大学教授(経済学、交通政策論)と、JR西日本運転士の高橋さん、国労大阪地区本部の井戸さん、日航パイロットの浜田さん、日航客室乗務員の信田さんを招いて,公共交通機関の過重・過密運転を考えるシンポジウムを行った。尼崎列車事故の直後ということもあり活発な討論がなされ議論が深まった。参加者は120名にのぼった。なお、当日の様子は岩波ブックレットより出版予定である。今後も,分野ごとの労働実態を考える取り組みを重視していきたい。

6 「過労死110番街頭宣伝」(04年11月19日 05年6月17日)
 一昨年・昨年初めて取り組んだ「過労死・サービス残業撲滅1日キャラバン」に代わり、今年は街頭宣伝を行った。過労死110番を前に大阪過労死家族の会や連絡会が,直接街頭で市民に訴え,道行く人に過労死問題をアピールした。

7 2度の「過労死110番」
 この1年は,2度にわたり「過労死110番」を実施した。
①「過労死110番」(11月20日)
 民主法律協会・過労死弁護団全国連絡会議・日本労働弁護団・大阪過労死問題連絡会・労働基準オンブズマン・大阪過労死を考える家族の会の共催で行われた。
 マスコミ報道がほとんど無かったこともあり,午前中は5台の電話機は鳴り続けていたが,午後にはほとんど電話がかかってこない状況になった。「全国15都道府県で相談総数160件、うち大阪14件(過労死等労災補償相談4件、予防・働き過ぎ相談9件、その他1件)」の相談が寄せられた。11月中に個別相談会も行い,引き続き事件として取り組んでいる。
②「労働ストレス過労死・過労自殺110番」(6月19日)
 毎年父の日の前日に行われる110番である。労災補償相談は合計16件で、その内訳は、①脳・心臓事案3件(うち死亡事案3件)、②自殺・精神疾患事案12件(うち死亡事案2件)、③その他ストレス疾患1件だった。6月27日に個別相談会も行った。

8 家族の会の活動
 過労死の遺族・当事者でつくる「大阪過労死を考える家族の会」の定例会が月に1度開かれ,毎回20名前後が参加している。裁判傍聴の日程確認をしたり,事件の進行についての報告をお互いに行っている。ほとんど毎回,初めての参加者があり,遺族が互いに助け合い,励まし合い,学び会う場になっている。
 大阪家族の会のメーリングリスト(ML)には,関西に限らず全国から90名以上が登録し,全国の過労死家族の一大交流の場となっている。
 05年7月23・24日には,一昨年・昨年に引き続き「1泊交流会」が行われ,北は新潟から南は福岡まで全国から64名が参加した。

9 ホームページとメーリングリスト
 過労死連絡会のHP(00年6月開設,本年7月19日現在アクセス数約15万),労基オンブズマンのHP(02年7月開設,同じく約13万8000)はそれぞれの特色を持ちつつ充実している。HPを通じての全国からの相談・受任も増え続けている。
 特にオンブズマンのHPの簡易相談コーナーには毎日全国から切実な相談が寄せられている。それらへの迅速な対応も要求され,弁護士だけでなく司法書士・社労士幅広い分野の方々と協力していくことが引き続き必要である。
 過労死連絡会,オンブズマンのMLにはそれぞれ約117名,97名が登録し,過労死弁護団全国連絡会議のML(約160名)も含めて,日常的な意見・情報交換がなされている。

10 36協定についての情報開示請求
 過労死・過労自殺の温床となっている長時間残業の元凶とも言うべき三六協定について,具体的にどのような協定が締結されているのかについて把握すべく,03年2月25日,大阪中央労基署に対し三六協定の開示請求をしたが,そのほとんどにつき,不開示とする決定がなされたことから,大阪労働局長を被告として行政訴訟を提起した。この訴訟についての判決あり「いわゆる36協定に記載されている「事業の名称」等の情報が情報公開法5条所定の不開示事由にはあたらいないとして、大阪労働局長の行政文書一部不開示処分のうち同情報を不開示として部分が取り消された(大阪地裁平成17年3月17日判決)

11 過労死連絡会の例会
 以上のような様々な取り組みの原動力となっているのは,やはり毎月1回行っている過労死連絡会の例会であるが,このところ例会の参加者は多くない。参加者を増やし,内容も充実させるために,単なる事務的な会議に終わらせるのではなく,毎回何らかの素材・報告を準備して議論を行うなどの工夫をする必要がある。

【活動日誌】
H16.10.23    全国一斉残業・長時間労働ホットライン
    11.11    連絡会新人ガイダンス
    11.19    過労死110番街頭宣伝行動
    11.20    過労死110番
12.10    連絡会12月例会
H17. 1.19    連絡会1月例会
     2.12~13 権利討論集会
     2. 9    連絡会2月例会
     3.17    連絡会3月例会
     4. 9    過労死弁護団全国連絡会議幹事会(東京)
     4.20    連絡会4月例会
     5.11    連絡会5月例会
     6. 8    連絡会6月例会
     6.15    シンポジウム「これで安全は守れるのか!?~公共交通機関の過重・過密運転を考える」(エル・おおさか府立労働センター)
     6.18    過労死・過労自殺110番
     7.13    連絡会7月例会
     7.23~24 大阪過労死を考える家族の会1泊交流会(奈良県桜井市)

(民主法律263号・2005年8月)

2005/08/01