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気合いの証拠保全 弁護士 高橋 徹(民主法律時報341号・2000年10月)

弁護士 高橋 徹

 新人弁護士の高橋です。この4月から、南大阪法律事務所で弁護士をしております。今回は、私がこの7月から松丸先生、下川先生とともに取り組んでいる過労死事件について報告いたします。
 被災者はタクシー運転手として、常軌を逸するほどの過重勤務を続け、業務中に急性心筋梗塞で亡くなりました。被災者は、隔日交替制の勤務に従事しており、24時間を超える長時間過密労働を繰り返し、公休日も出勤するなど、まさに働きづめの毎日を送っていました。被災者は亡くなる直前まで35日間も休日なしで働き続けていたのです。
 過労死110番がきっかけで、7月上旬に打ち合わせをし、現在、労災申請の最中です。会社側は、労基署に対し、タコグラフを「廃棄処分にした」として提出しておりません。タコグラフは、出庫時から入庫時までの業務の状況を正確かつ詳細に示すものであり、業務の過重性を知るためには是非とも必要な資料でした。
そして、私たちの手元にはタコグラフのほか、運転日報や月別稼動明細書など業務の状況を示す資料がほとんどないという状況でした。そこで、まず、証拠保全をすることになりました。
 証拠保全は、8月17日、8月30日の2日間、猛暑の中で行われました。当初から、会社は「(北摂では) タコグラフの保存義務はない」「半年経てばタコグラフは処分することにしている」の一点張りでした。しかし、証拠保全は、ここで諦めたらいけないと後に実感させられた次第です。「(タコグラフが)まだ残っているかも知れない」と業務資料の保管倉庫(物置)まで行ったのです。倉庫に行ってみると、本来処分されているはずの古いタコグラフが一部だけありました。これは、ひょつとしたら目指すタコグラフもあるのではないかと、段ボール箱を開けてみると、一部ではありますが、目当てのタコグラフが見つかったではありませんか。証拠は自分で見つけ出すものなのですね。この後、裁判官(同期の新人判事補でした)も俄然やるきを出してくれました。裁判官、書記官とも汗を流して、3時間以上も立ちっぱなしのまま、2日間もかけて、運転日報やタコグラフを収集する作業を手伝ってくれたのでした。このときの裁判官にはたいへん感謝しております。
 結局、このとき保全したタコグラフは一部にすぎませんでしたが、大いに役立ってくれたと思います。タコグラフを見ると、メーターが一周しており、被災者が24時間以上もタクシーを運転していたことが一目瞭然であり、被災者の労務がいかに過重であったかを生々しく物語っていたと思います。もちろん、労基署に提出する意見書を書く段でも威力を発揮してくれました。
 証拠保全は気合いさえあればなんとかなる、との意を強くしている次第です。
 この後は、労基署の決定を待ち、その後は訴訟と、この過労死事件はまだまだ続きそうです。
(民主法律時報341号・2000年10月)

2000/10/01