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93権利討論集会第6分科会報告 弁護士 脇山 拓(民主法律時報263号・1993年3月)

93春闘と権利討論集会を開催
内橋克人氏の講演、夜の交流会などで充実

 2月13日と14日の両日、大津のアヤハレークサイドホテルで、93春闘と権利討論集会が開催されました
(参加者261名)。
 記念講演には、評論家としてマスコミで活躍中の内橋克人氏をお招きし、「いま、何が問われているのか?日本型企業社会の構造と変革への視点」と題してご講演いただきました。
 氏は企業社会を変革する視点として5つのことをあげられましたが、そのなかで特に強調されたのが、日経連の主張する生産性基準原理を説得力ある論理で打ち破ることでした。「ベースアップは『GNPの実質成長率』マイナス『就業者の増加率」で決まる」というこの生産性基準原理は、結局のところ企業の負うべきリスク(投資エラーの責任)を労働者の犠牲に転嫁するものだというのが氏の主張です。そして、氏は、労働側がこの日経連の生産性基準原理に対抗するもうひとつのカウンターカルチャーを築き上げることの必要性を、ドイツの例などをあげながら強調されました。ドイツでは、地域分担平準化制度や勤労者財産形成法で社会的公正を実現しようとし、富の再配分が行われてきました。しかし日本では、生席性基準原理で再配分の道はとざされ、さらには、その結果によるベースアップゼロが、内外価格差調整や赤字国債発行による所得税減税という「次代につけをまわす方法」で埋め合わせをされようとしていると氏は指摘されます。講演の後、全人阪金属の小林委員長の質問に答えられて、「私が『匠の時代』で描いた創造的な技術開発を行う人たちの努力も、日本の短サイクル大量廃棄の経済システムのなかでは、結局経済摩擦の原因にされてしまうだけであることに気付いた。短サイクル大量廃棄の経済システムのもとでは人間のロマンは生まれない。だから私は『匠の時代』はもう書かないと宣言した」と述べておられたのが印象的でした。
 さて今年も昨年に続いて、権利討論集会の夜を充実させようと、「争議団と語る」「教育・子育てを語る」の2つの交流会とビデオ上映会(「安心して老いるために」「教えられなかった戦争」)を企画しました。私の参加した「教育・子育てを語る」の交流会では、大阪教育文化センター大坪和夫先生から、日頃の教育相談活動での豊富な経鹸に基づくお話をいただいた後、参加者の日頃の子育てぶりを交流しあって大いに盛り上がりました。他の交流会、ビデオ上映映会でも、実りある一夜にしていただけたでしょうか?
      (事務局長 宮地光子)

 第6分科会
 人間らしく働くために
   ~空洞化する労基法と職場の実態~

 労基法改「正」問題、時間短縮問題、過労死問題をテーマとする本分村会の参加者は、延べ28名(内、弁護士5名、学者2名、過労死家族2名)。ここ数年、「時短ブーム」もあり、時短をテーマとする分科会には多数の参加者が集まっていたが、参加者数でみる限り、不況の到来と共に.時短ブームも去っていったようである。

 1日目はまず青木弁護上が、この間進められている労基法の改「正」動向について報告、引き続いて国労から、JR職場の実態が報告された。
 JRにおいては、巧みに労基法の盲点をついて、労働者の権利の切下げ、労働強化、合理化が進められており、その実態には分科会参加者一同が驚いていた。
 時短へのこの間の取り組みについては、やはり厳しい状況の報告が相次いだ。
 これに対しては、弁護士や萬井先生から、サービス残業問題など違法なことがはっきりしているのに、取り組む側が少数派となっている原因は何なのかを解明していく必要があるという指摘や、西ドイツにおいて時短が進んだのは、不況期に不況だからこそ時短で仕事を分け合おうということで取り組んだからであるので、日本でも何とかしないといけない、というアドバイスがなされた。

 2日目は、まず森岡先生から、日本の残業を生み出す構造の説明とともに、時短の焦点はまずサービス残業をなくすことであり、これをなくしてはじめて日本があたりまえの資本主義国になったと言えるので、ぜひ取り組んでもらいたいとの提起がなされた。また、萬井先生から、サービス残業は違法なことが当然であり、法律論としては問題にもならないということであること、物を買って貧乏だから払えないと言えないのと同じで、不況だから残業代は出せないというのは理由にならないという指摘がされた。
 その後の討論の中で、サービス残業を生み出す背景には、客観的な尺度では評価を行わない日本の人事制度の問題があり、ここまで踏み込んだ取り組みが必要であることが確認された。
 過労死事件への取り組みに関連して、昨年大成功した「突然の明日」上演運動の経験が報告された。この経験が、これまでの遺族対企業社会という闘いの構造から、遺族と組合が協力して企業社会と闘うという状況へと変化するきっかけになったのではないかという指摘があった。また、文化の持つ力を再確認したという意見、若い世代に訴えることの大切さを痛感したという意見も出された。
 また、遺族の支援活動だけでなく、労災認定基準そのものを変えて行くという方向での運動や、支援する組合が自らの安全衛生活動を振り返る視点を持つことが大切だという指摘もあった。
 時短をしながら収入を減らさない運動に取り組まねばならないことの意義を確認した分科会であった。
        (弁護士 脇山 拓)
(民主法律時報263号・1993年3月)

1993/03/01