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大阪過労死問題連絡会の3年間 連絡会事務局長・弁護士 松丸 正(民主法律188号・1985年8月)

連絡会事務局長・弁護士 松丸 正

一、大阪過労死問項連絡会とは
1981年7月、大阪過労死問題連絡会が結成されてから3年余、循環器系障害を中心とする過労死等の労災認定への取り組みを基本にしながら、過労死問題 に継続的に取り組む全国でも数少ない活動を、弁護士・医療関係者・労組等の運動体の協力により続けて来ている。
連絡会はその日的として、
①過労死等の労災認定の取り組み、
②過労死等を生み出す職場の労働条件改善への協力、
③過労死問題についての啓蒙活動、
④過労死に関する労基行政への取り組み
の4つを掲げ取り組んできた。それぞれの点につき、その成果と問項点をまとめてみよう。

二、過労死等の労災認定の取り組み
この間、連絡会に相談を持ち込まれた認定事件は別表のとおり23件にも及んでいる。持ち込まれた時点においては被災者遺族・労働組合が認定に取り組む ことについて自信がないというケースが多く、労基署に相談したが私病であり、請求しても労災はおりないと言われたとか、会社が私病として判断し請求手続す ら取らないが、どうしたらよいかということで相談が持ち込まれている。

しかし、日常的に組合員の健康問題に意識的に取り組み、健康と労働の関係について自覚的な労働組合にあっては組合員の過労死等が発生した場合、直ちに 労災保険の請求手続を前提として、発症直前の事実関係並びに、被災者並びに職場の労働の過重性についての調査を詳細かつ迅速に行なっている。
過労死等の認定については労働組合の過労死等を労働との関わりでしっかり見据える視点が確立しているか否かが、被災者の救済並びに労働条件の改善にとって最も大切である。

とりわけ業務上外の区別を発症直前の災害的事実に求める、災害主義と通称される不当な行政の基準からするならば、発症直前の事実関係は必夢以上の重要 性を帯びてくるものであり、発症直後のその事実関係の詳細かつ迅速な調査の有無は認定の可否に大きな影響を及ぼしている。
一方、職場の在職死亡等を過去に遡って検討し(死亡時より5年間は労災の給付請求はできる)、職場で倒れた同僚の死亡原因を明らかにすることも大切であ る。現に読売テレビ労組では6年前の脳血栓の発症による療養中の件につき当連絡会の協力の下、労災認定に取り組み、認定は得られなかったものの、会社に労 災に準ずるような補償をさせるという成果をあげている。
職場で労災認定に取り鼠むにあたって同僚から「彼はよく酒はかり飲んでいたから」とか「血圧が高いのに病院にも行かなかった」とか「歩合給を稼ぐため 労組の言うこともきかずに残業ばかりしていたから」などという声が聞かれることも多い。このような声にとどまる限り私的な健康管理上の間額ということでか たづけられてしまうこととなろう。
同僚こそが被災者の労働のしんどさを最も知ってぃるはずである。とともに一方では労働が日常性を有しているがために、客観的にはしんどい労働であるのが明らかなのに、それを認識していないケースも少なくない。
しかし、その多くは職場の同僚たちが被災者の死と自分達の労働を見比べる中で、日々の労働のしんどさを再認識し、明日は我が身の実感をもって再び認定、更には労働条件の改善に向けて一生懸命取り組み始めている。

当連絡会は、月1回の定例会の討議の殆どを認定事件の事例研究に充てている。
1カ月間余にわたって公休もなく連続して夜勤警備業務に1人で従事し、真夜中、脳出血を発症し冷たいコンクリート床の上に倒れ、誰に助けを求めることもできずもがきながら死んでいった警備員。
水揚高に応じた歩合給と子の学資と住宅ローンの返済に追われ高血圧症の身であるにも拘らず、それを顧みず他の運転手の平均の1.5倍もの水揚高をあげる無理な運転を続け、深夜、運転中脳出血で倒れた中年のタクシー運転手。
子会社に出向させられ慣れぬ仕事と責任の重みから、職場でさばききれない仕事を毎日自宅に持ち帰って仕事を続け、自宅でくも膜下出血で倒れた課長補佐。
いずれも戦場と言っても過言ではない厳しい労働条件の職場で倒れてぃった働きパチの戦士たちである。
当面、当連絡会の主事な任務を過労死認定のかけこみ寺と位置づけて活動して行きたい。

三、過労死問題についての啓蒙活動
循環器系障害(脳内出血・心筋梗塞等)を労働との関わりで考え、その認定や労働条件改善に取り組む姿勢は必ずしも労働組合運動の中で確立しているとは言い難い。
その意味で啓蒙活動を当会の活動の重要な一環として位置づけてきた。
会長の田尻医師らの編者となる「過労死」の出版に引き続き、当会は 「過労死110番」 のパンフレットを出版し現在までに2000部近くを普及して おり、労組の学習会にもテキストとして運用されている。また北海道・沖縄からもその取り寄せの依頼がきている。
また、労組の学習会への講師派遣、雑誌新聞等への寄稿などを通じて、過労死問題の普及に努めてきた。
「過労死110番」を書店で読んで、自分の妻(看護婦)の死について過労死ではないかと考えたとの相談もあり、またパンフの学習を通じて私病として考えてきた同僚の死を過労死と認識したとの声も寄せられている。

四、過労死に関する労基行政への取り組み
既述したとおり過労死の認定について行政は災害主義の考えを改めようとしないどころか、かえって益々これに固執する傾向が 大阪では表われている。
一方では被災者の側で労働の過重性を立証したとしても、過重な労働に長年耐えてきているのだから、結局それは被災者にとっては過重ではないのだという 奇弁が弄され、また他方、被災者が高血圧症の基礎疾病等のハンディキャップを有しており、同僚と同じ程度の重さの労働に耐えることができず発症したような ケースにおいては、被災者の労働は同際と同じ程度であったのだから過重性はなく結局本人の持病によるものだとされることが多い。
災害主義のドグマを改善させることが急務となっている。

五、まとめ
当連絡会の活動にあたった3年余、私の耳にはあくなき利潤追求という資本の至上命令の下に誠実かつ従順に働き、その身心を擦り減らし、その命さえも捧げ尽くした労働者の恨みのこもった呼声がいつも響きわたっていたと言っても過言でない。
長時間過密労働は肉体的に過労死を生み出すとともに精神的に反応性うつ病等の精神疾患を生み出し、更に家庭的には家族の崩壊即ち離婚、親子の断絶等を生み出し、労働者の全生活面にわたって破局をもたらそうとしていると言われている。
当連絡会の活動を更に強化しなければならない。
(民主法律188号・85権利討論集会特集号)

1985/08/01