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労災保険と企業責任の関係

 労災保険制度と企業責任の関係について説明してください。

◆労災保険制度のあらまし

 過労死に限りませんが、一般に労災の補償には大きく分けて二種類あります。その一つは労災保険制度による給付(これを法定補償ともいいます)であり、もう一つは企業による損害賠償です。
 前者は、個別企業が支払うのではなく、労災保険の財源から支払われます。給付をするか否かは各地の労基署長が決定しますが、不支給の決定に対しては不服申立てをすることができ、行政訴訟として裁判所で判決を受けることもできます。この労災保険は、労災に関して企業(会社)側に過失があるか否かにかかわらず、遺族や被災者に支払われるものです。したがって、企業責任のない場合にも支給の対象となっています。また、支給額は労災によって被った損害の全額ではなく、被災前の賃金に基づく一定の金額が一時金や年金の形で支払われます。

◆企業による損害賠償について

 一方、企業による損害賠償は、企業が安全(健康)配慮義務に違反した場合に、被災者・遺族に行われるものです。この場合の損害賠償額は実損額全額(ただし、当該労働者自身にも過失があった場合や労災保険から給付がなされている場合は減額されます)であり、慰謝料も請求できます。
 企業の安全(健康)配慮義務に関する詳しい説明はQ60に譲りますが、企業は労働者を自分の指揮命令下に置いて働かせ利益をあげているのですから、労働者の命と健康に配慮すべき義務(安全配慮義務)があります。そして企業がこの義務を怠って労働者の命と健康を害した場合は、その損害を賠償しなければならないわけです。

◆両者間の調整

 なお、労災保険による年金給付と民事の損害賠償については、一定の調整があります。
 まず、労災給付後に民事の損害賠償が行われるときは、生存していれば受けられた給与についての損害(逸失利益)については、現実にすでに給付を受けた年金分が控除されます(損益相殺)。
 逆に、事業主から損害賠償を先に受けた場合、政府は一定の限度で保険給付をしないことができます(労災保険法六四条二項)。
 いずれも同一事由に基づく「二重取り」を防止するものですが、完全に重なることはないため、両制度を用いることにメリットはあります。

2011/10/01