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過労自殺鐘化工業・金谷事件の業務上認定判決 弁護士 松丸 正(民主法律時報407号・2006年5月)

弁護士 松丸 正

1、福岡地裁の勝訴判決
 鐘淵化学工業(略称鐘化)に勤務し、99年8月に九州カネライトに出向したのち、同年12月15日に自殺した金谷亮一さん(当時49才)の死につき、福岡地方裁判所は業務上と判断し、妻である金谷一美さんに対する八女労基署長の遺族補償年金等の不支給決定処分を取消す判決を下した。
 この判決は、
① 厚生労働省の精神障害・自殺についての認定基準(判断指針)は、各出来事相互間の関係、相乗効果等を評価する視点が十分でなく、業務起因性を判断するための資料の一つにすぎない。
② 心理的負荷の要因となる業務上の出来事が複数存在する場合においては、個々の出来事の心理的負荷ではなく、これらを総合的に判断しなくてはならない。
③ 当該労働者の経歴、職歴、職場における立場、性格等が、同種の労働者が有する多様性の範囲を超えるものでない限りそれを考慮すべきである。
とした点において注目される判決である。

2、複数の出来事の相互関連に基づく総合的評価
 亮一さんはうつ病を発症(同年10月下旬ころから11月ころ)する前において、単身赴任による出向、設計管理業務から機械設備の保全業務への変更、新規機械導入やISO業務の多忙による引継ぎの遅れ、更に発症前の月80時間を超える時間外労働等の出来事が生じていた。
 判決は、これら個々の出来事それぞれについては特に過重なものではないとしている。しかし、認定基準(判断指針)の前記①の不十分さを踏まえたうえ、「業務上の出来事が複数存在する場合においては、それらの要因は相互に関連し、一体となって精神障害の発症に寄与するものであるから、個々の出来事の心理的負荷ではなく、これらを総合的に判断」すれば、強度の心理的負荷であったことは明らかであると判断した。
 また③の点についても、トヨタ過労自殺高裁判決を踏襲し、同種労働者の性格における多様性を逸脱しない限り、被災者の職場での立場や性格に基づいて心理的負荷の重さを評価するとしている。この点は同高裁判決でも述べられているように認定基準(判断指針)の立場でもあるとされている。

3、認定基準(判断指針)との関係
 発症前に複数の出来事があるとき、認定基準(判断指針)の立場でも「その各々の出来事の相対的意味、時間的経過と当該精神障害との関係について、総合的に判断せざるを得ない」(職業病認定対策室)としている。しかし、行政段階での判断は総合的判断の視点が欠落し、複数の出来事を個別に検討し、相互の関連性についての検討が充分されていないことが多い。この判決が相互の関連性と相乗作用を強調した点は、認定実務に対する影響は大であろう。
 このように、この判決は認定基準(判断指針)を批判しつつも、それと矛盾する判示内容ではない。矛盾しているのは行政段階の認定実務のあり方と言えよう。しかし、被告は控訴したため、福岡高裁で更に争われることになった。

4、一層のご支援を
 金谷さんのこの事件については、福岡で大きな支援の輪が広がるとともに、大阪過労死を考える家族の会が支援し、判決当日も傍聴席はいっぱいになった。家族同士の支えあいによる運動として、NHKTVでも判決日の模様は報道された。福岡と大阪を結ぶこの事件の支援を強められることを期待します。
 弁護団も福岡の梶原恒夫・井下顕・佐々木かおりと、大阪の岩城穣・松丸正の福岡・大阪の混成弁護団です。

(民主法律時報407号・2006年5月)

2006/05/01