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徳洲会・時間外手当請求訴訟の報告 弁護士 斉藤真行(民主法律時報372号・2003年5月)

弁護士 斉藤真行

一、事案の概要     
野崎徳洲会病院のベテランの医療事務労働者(勤続二五年)が原告となり、未払い残業代請求額全額(一〇六万円余)と、同額の附加金の支払いを命じる判決を得て、判決どおり全額(遅延損害金も含めて)を支払わせた事件。原告は医労連に加盟。       

二、サービス残業が横行している実態
 徳洲会の病院においては、医療事務労働者は、提出期限のある診療報酬明細書の作成を始め、多様な事務処理に追われ、繁忙を極めている。特に平成に入ってから完全週休二日制が導入され平日の労働が加重になったにもかかわらず、その負担を軽減するための措置は取られなかった。 
 こうして、サービス残業が横行することになる。

三、時間外勤務の「自主申告」
 野崎徳洲会病院では、職員にタイムカードの打刻を義務づけたほか、それとは別に時間外労働については「勤務記録表」に「自主申告」の時刻・時間を記載させている。そして、時間外手当の計算は、専ら「勤務記録表」の時間に基づいて計算されている。
 この「勤務記録表」への「自主申告」が、サービス残業を事実上制度化している。

四、訴訟上の争点
 訴訟では、タイムカードの打刻内容、及びそれと異なる「勤務記録表」の「自主申告」時間が時間外労働時間なのか、という問題が争点となった。
 原告はタイムカードの時刻をメモしていたので、具体的な時間外労働時間の主張をするとともに、徳洲会側にタイムカードの提出を求め(提出しなければ、文書提出命令の申立をする旨を予告して)徳洲会はこれに応じた。
 タイムカードの打刻内容には、終業時刻後の退出には、単なる「退出」と「時間外」の二種類がある。原告の主張は、どちらの場合にも、時間外労働をしていたのであるが、「時間外」ばかりの打刻をし難い状況だったというものである。更に、「勤務記録表」の「自主申告」は過少に申告をしていた。
 そして、このタイムカードの打刻と「勤務記録表」の「自主申告時間」との違いが最大の争点であった。

五、立証
 原告は、タイムカードの打刻が「退出」であろうが「時間外」であろうが、すべて避けられない時間外労働のためであったことを、陳述書、同僚のために作成した事務処理のマニュアル的文書、元同僚の証言、本人尋問で立証した。
 「勤務記録表」の「自主申告」の意味については、元同僚の証言と本人尋問、そして徳洲会側の証人(事務長と医事主任)への反対尋問で、立証した。

六、認定
 判決は、徳洲会本部の会議において、時間外手当の支給額の多い職員をリストアップして、その残業時間を減らすように担当者に指示をしていたことを認定した。そして、前記の時間外労働が避けられない職場の実態にもかかわらず、職員の時間外労働を減少させるに足りる具体的な対策は特段とられなかったことも、認定した。
 その結果、判決は、職員が時間外労働を過少に申告せざるを得ない実態であることを認定し、「退出」「時間外」の区別にかかわらず、原告主張のとおりの時間外労働の存在を認めた。

七、判決後
 徳洲会は、判決どおり(遅延損害金を含む)の金額を本人に支払って、本件は一応の解決を見た。
 しかし同じ頃、野崎病院長と事務長が、原告を呼びだして、「院内に落ちていた匿名の文書」と称する文書を見せた。その「文書」には「医療は奉仕だ。病院を相手に権利を主張し、裁判を起こすことは許せない。原告の顔も見たくない」などと、原告を中傷する内容が書き連ねてあった。この出来事を、皆さんはどう思われるだろうか。
(民主法律時報372号・2003年5月)

 

2003/05/01