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基礎疾病がある労働者に対する会社の健康配慮義務

 土木工事の設計業務をしていた夫は、2年前の会社の定期健康診断の心電図検査で心房細動という不整脈の診断が出ました。しかしその後も、毎日平均して2時間ほどの残業を続ける中、先日、脳梗塞を発症して死亡しました。労基署に相談すると、時間外労働が月50時間程度だから業務上にはなりにくいと言われています。救済される方法はないのでしょうか。

◆脳梗塞とは

 脳梗塞は、発症のしかたによって脳血栓と脳塞栓に大別され、前者は脳の血管が細くなって詰まることにより脳に十分な血液がいかなくなるもの、後者は、血液中の異物が血流に乗って脳血管を閉塞し、脳壊死を起こすものをいいます。この脳血管を閉塞する異物は、心臓内で生じた血栓が剥離したものが多く、これが原因で脳塞栓が起きたものを心原性脳梗塞といいます。全脳梗塞に占める心原性脳梗塞の割合は、15%程度と推定されています。
 この心原性脳梗塞の原因の中で最も多いのは、心房細動です。心房細動は、心房が全体の統一を失い、各部が不規則かつ休みなく興奮している状態をいい、身体的には不整脈として表れます。そして、その不規則な脈動のために、心房内で血行の乱れが生じて血栓が起こりやすくなり、また血栓の存在が血液の凝固を促進して一層血栓ができやすくなります。このようにして心房内で形成された血栓が脳内動脈に流れ込み、脳梗塞を生じさせるのです。心房細動によって形成される血栓は大きなものになるので、主幹動脈を閉塞して大梗塞を生じさせやすく、死亡率が高くなっています。過重労働が心房細動を悪化させ、脳梗塞栓を発症させる可能性は十分に考えられます。

◆使用者の安全(健康)配慮義務

 労働契約関係において、使用者はその使用する労働者に対し、安全(健康)配慮義務を負っています。具体的には、必要に応じ健康診断を実施し、労働者の健康状態を把握して健康管理を行い(労働安全衛生法66条)、心房細動などの基礎疾患等健康障害があるか、またはその可能性のある労働者に対しては、その症状に応じて勤務軽減(夜勤労働や残業労働の中止、労働時間の短縮、労働量の削減等)、作業の転換、就業場所の変更等労働者の健康保持のための適切な措置を講じなければならず(同条5項)、そのような措置を講じるために、健康診断上異常所見が見つかった場合には当該労働者の健康を保持するための必要な措置についての医師の意見を聴取しなければなりません(労働安全衛生法66条の4、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成8年10月1日労働省公示第1号、平成12年3月31日公示第2号改正))。
 健康診断において心房細動が確認された労働者が過重な業務に従事し、脳梗塞を発症して死亡した事案で、労働者の過重労働が心房細動による血栓の形成を、その自然経過を越えて急激に増悪・促進させる要因となった可能性が高いとして、業務と死亡との間の相当因果関係を認め、また労働者のこのような健康診断上の異常所見を発見し、あるいは発見し得た使用者は、致命的な合併症を発症させる危険性のある過重な業務に就かせないよう適切な措置を取るべきだったのに、これを怠ったとして、使用者の安全配慮義務違反を認め、遺族の損害賠償請求を認めた裁判例もあります(大阪地判平成14年4月15日)。
 労基署において業務上と判断されなくても、このように使用者の安全配慮義務について使用者に義務違反がある場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求という形で救済される可能性があります。

2011/10/01