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使用者の安全(健康)配慮義務の具体的内容

 使用者は労働者の健康管理のためにどのような対策を取る義務がありますか。また、異常が見つかった労働者に対して使用者はどのように対応する必要があるのでしょうか。

◆安全(健康)配慮義務とは

 使用者は、労働契約に付随する義務として、労働者が労働によって健康を害さないように、労働時間などの労働条件や労働環境を整備する義務を負っています。通常、危険作業などを意識して安全配慮義務と呼ばれていますが、過労死を防ぐという側面からは、健康配慮義務と呼ぶことができます。
 もちろん、健康は労働者自身の自己管理による部分も大きいので、過労死をめぐる損害賠償請求においては、使用者から労働者自身が「自己健康保持義務」(労働安全衛生法4条・69条2項など参照)を負うと主張することもあります。しかし、一日の大半を職場で過ごし、家庭は「寝るだけ」というような実態においては、第一次的には使用者の健康配慮義務が問題とされるべきです。

◆過労死についての具体的な安全(健康)配慮義務

 安全配慮義務の具体的内容は個々の事件ごとにそれぞれ異なります。過労死について従前の判例が述べていることをまとめると次のようになります(弁護士岡村親宜氏による)。
 ① 労働者が過重な労働が原因となって健康を破壊して過労死することがないよう労働時間、休憩時間、休日、労働密度、休憩場所、人員配置、労働環境等適切な労働条件を措置すべき適正労働条件措置義務
 ② 必要に応じ(最低、雇入れ時および年1回)、血圧測定、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、尿検査、心電図検査の診断項目を含む健康診断を実施し、労働者の健康状態を把握して健康管理を行い、健康障害を早期に発見すべき健康管理義務
 ③ 健康障害(高血圧症などの基礎疾患、既往症などによる)があるか、もしくはその可能性のある労働者に対しては、その症状に応じて勤務軽減(夜勤労働や残業労働の中止、労働時間の短縮、労働量の削減等)、作業の転換、就業場所の変更等労働者の健康保持のための適切な措置を講じ、労働者の基礎疾患等に影響を及ぼす可能性のある労働に従事させてはならない適正労働配置義務
 ④ 過労により疾患を発症したか、もしくは発症した可能性のある労働者に対し適切な看護を行い適切な治療(救急車で病院に搬送する等)を受けさせるべき看護・治療義務
 電通過労自殺死事件(最判平成12年3月24日労働判例779号13頁)をはじめ、過労自殺の損害賠償事件で最も重要なのは、適正労働時間管理義務を中心とした①の義務です。
 また、一般の労働者にとっては過重でない業務であっても、発症の危険度の高い基礎疾病(心筋梗塞の既往、高度の高血圧、心房細動等の不整脈、心筋症等)にとっては発症を誘発する業務になります。②の健康診断義務を怠ったり、健康診断で異常があったのに③の適正労働配置義務を怠ったため、労働者を発症に至らしめたときも健康配慮義務違反になります。

2011/10/01