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ノルマの厳しさはどのように評価されるか

 亡くなった夫は営業マンとして外回りばかりで、タイムカードなどもなかったため、労働時間がわかりません。ただ、毎日朝早く出ていって夜遅く帰ってきていましたし、ノルマに追われていつもしんどそうでした。業務の過重性の判断では、精神的負担やノルマの厳しさなどは考慮されないのでしょうか。

◆新認定基準におけるノルマの評価

 新認定基準は、精神的緊張を伴う業務について、「日常的に精神的緊張を伴う業務」と「発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事」を具体的に列挙しています。前者の中に「過大なノルマがある業務」があげられ、「ノルマの内容、困難性・強制性、ペナルティの有無等」、さらに「業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等」を、負荷の程度を評価する視点として検討することにしています。

◆ノルマも具体的に主張する

 過重なノルマや成績主義の重圧、その背景にあるリストラの圧力など、労働者にとって肉体的負担以上に、精神的負荷が大きくなっています。労働時間と違って、こういった精神的負荷については測りようがありませんので、事実調査においてはどうしても労働時間など数値化できるものに重点を置きがちです。しかし、新認定基準では、特に過重な業務の定義に「特に過重な精神的負荷」が入っていますので、過重なノルマ等について、具体的に主張していくことは重要です。
 また、ご質問のような営業マンの場合、労働時間管理がなされていない場合が多いので、ノルマや成績から逆算して、少なくともこれくらいの労働時間は働いていたはずだと推定するための資料にもなります。
 実例として、証券外務員の過労死事件においては、本人の研修会での発言テープ内容、「K君の一日」として早朝から深夜までの勤務を前提としていた研修資料、会社で作成されていた売上についての番付表(横綱から序の口まで営業マンの実名が列記)、トップ営業マンの成績について宣伝し、他の営業マンの奮起を促す会社内部の広報文書と、本人の営業成績を入手し、さらに同僚や妻からの聴き取りによって、いかに過酷なノルマと熾烈な競争が存在したかを立証しました。同時に、このような業務量を基に労働時間の推定を行いました。会社、組合、同僚、妻といった別々のルートから情報を収集した成果でした(労働法律旬報一三七四号一八頁)。

◆過労自殺の基準

 なお、過労自殺の判断指針の別表一②には「ノルマが達成できなかった」ことを心理的負荷「Ⅱ」と評価しています。精神的負荷の有無と程度については、この別表一も参照しつつ、具体的な情報収集を行ってください。

◆長時間労働の理由を解明する視点

 過労死や過労自殺の場合、単に「長時間働いた」とか「仕事がきつかった」という客観的な事実だけではなく、「なぜそこまでして働いたのか」「なぜそれほど過酷な職場の状況になっていたのか」を解明する視点を持つ必要があります。認定業務にあたる行政官や裁判官にとっても、厳しい職場の状況と、その中で懸命に責務を果たそうとしている労働者の人間像が見えて、初めて業務上の認定について積極的な姿勢を持ち始めるのではないでしょうか。

2011/10/01