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サービス残業・フロッピー残業はどのように立証すればよいか

 夫は銀行員で、毎晩深夜まで残業をしていたのですが、どんなに残業しても月10時間までという残業枠が設けられており、タイムカードを押してからさらに仕事をするという日々が続いていましたし、家での持ち帰り残業(フロッピー残業)もありました。そのため労災申請するに際して正確な労働時間数がわかりません。このような場合にはどうしたらよいのでしょうか。

◆隠されるサービス残業

 サービス残業とは、残業をしていても、使用者に残業として申告しないか、あるいは申告しても支払いがされない残業のことです。この場合、申告していなくても実際に残業しているならば、本来は割増賃金の請求ができるはずです(労基法三七条)。
 ご質問のようなサービス残業は民間企業ではよくみられます。不況の下での経費節減で枠を設けたという場合もあれば、そもそもノルマ主義で、時間管理そのものがないということも稀ではありません。

◆サービス残業の規制について

 高まるサービス残業批判に対応して、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日基発339号)という通達を出しました。この通達は、使用者は労働者の始業・終業時刻の確認と記録を原則として現認や客観的方法(タイムカードなど)で行うことを義務づけたうえで、労働者が現実の残業時間を申告することを妨げる目的で、残業時間の総枠などを設けてはならないなどとしています。
 労働時間の管理義務を尽くしていない使用者については、労働者が一応の証拠をもって残業を主張立証した以上、正確な労働時間が不明であるのは、管理を怠った会社側の責任であるなどとした判例もあり(大阪地判平成10年12月25日労働経済判例速報1702号)、過労死事案でも労働時間の推定を大いに働かせるべきでしょう。

◆残業に関する指揮命令のあり方と労災認定

 サービス残業と言っても、口頭などで明示の残業命令があれば労働時間となることは当然です。
 問題は、締切りのある業務を命じられて所定労働時間内では処理できない場合に、労働者の判断で残業しているような場合です。行政解釈は、「自主的時間外労働の場合は、労働時間ではないが、黙示の命令があると判断されるような場合(残業しないと嫌がらせされたり、不利益な扱いをされる等)は、労働時間にあたる」(昭和23年7月13日基発第1018号・第1019号)としています。
 では何をもって「黙示」の命令があると考えるかですが、労働がなされるのを使用者が黙認・許容していた場合はそれに該当するでしょう。特に、前述したように使用者の労働者の出退勤時間の正確な把握義務を前提とすると、給与支払いの対象としていなくとも、残業を黙認・許容していたといえる場合が多いと思います。また、賃金カットはもちろん、心理的強制も含めて、業務に従事しないことによる不利益がある場合も、労働時間と言えるでしょう。
 一方で今日、コンピュータが発達する中、締切りまでに成果物を提出すれば、自宅に持ち帰って仕事をしてもよいというような、会社の緩やかな監督と労働者に広い裁量権が認められる労働も広がっています。
 そのような場合でも、仕事についての期限と品質に対する要求がある以上、明示ないし黙示の命令が認められる場合は多いと思いますので、当該業務をめぐる労働者と上司等とのやり取りや業務の性質について、できるかぎり細かく調査することが重要です。

◆裁量労働制、みなし労働時間制との関係

 そもそも労基法における事業場外労働などの労働時間のみなし労働時間制や裁量労働制の導入は、割増賃金の対象となる労働時間と、業務のために実際に費やした労働時間とが異なりうることを前提にしています。これらの場合にあっても、労災認定の局面では、みなし労働時間制だけではなく、現実に行った労働時間を調査し、過重性の判断を行うことは当然です。
 このように、裁量的な業務を長時間行う中で倒れたような事案の中には、業務の必要性(締切りやノルマなど)があり、現実に成果等で業務の裏づけができ、それが使用者に提供されていることをもって、その業務時間を労働時間とみるべき事案もあるのではないかと考えます。

◆サービス残業の立証について

 前述の通達などサービス残業に対する規制は強化されつつありますが、構造不況の中、実態としてのサービス残業の蔓延にどこまで実効性があるかは疑問と言わざるを得ません。いったんタイムカードを押したうえで残業するなど、より巧妙化した悪質な残業隠しが増えるおそれもあります。
 したがって、使用者側の手持資料の早期の保全に努める必要があります。日報、タコグラフ、出入門管理記録など、使用者からの任意の提出が得られない場合に、裁判所の証拠保全を通じて入手した例もあります。
 また、被災者が所持していた手帳などの解読や、家族の記憶による推定労働時間表の作成、同僚からの労働実態の聴き取りなど、自主的な調査も重要です。

2011/10/01