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【オーストラリア】ACTU、仕事と家庭生活の両立に関するキャンペーンを展開 -長時間労働が問題に-(労働政策研究・研修機構)

 ACTU(オーストラリア労働組合評 議会)は、以前より長時間労働とサービス残業に関するキャンペーンを展開してきた。ACTUの説明では、オーストラリアはOECD加盟国の中で2番目に労 働時間が長い国であるという。ACTUは労使関係委員会の場で「合理的な労働時間」問題を審議するよう求めており、それに備えて2つの大学の研究機関に調 査を依頼した。

調査結果

 ACTUは2001年9月にその調査結果を公表した。バーバラ・ポコック等による調査は、12産業の長時間労働の影響を受けている50家族を対象にした面接調査などから成っている。調査結果によると、長時間労働の原因として個人的な金銭欲、仕事への愛情だけでなく、人員不足や解雇の不安等があげられている。長時間労働の影響は、家庭生活の浸食や疲労から生じる安全衛生上の危険となって現れる。
 とりわけ疲労は、労働者の生命を脅かすほどに深刻化している。さらに疲労と働き過ぎが、家庭生活に大きな影響をもたらしている。つまり多くの回答者が疲れすぎて、子供と遊んだり、配偶者と深い関係を築くことができないとしている。
 加えて、電子メールや移動電話などの近代的ツールが仕事と家庭生活の境界を浸食するようになっている。
 以上の調査結果は、オーストラリア統計局(ABS)が示した新たな調査結果(「Working Arrangements Australia」)によっても立証される形となった。それによると、子供が12歳未満のフルタイム労働者のうち約36%が労働時間を短くしたいと回答している。そして3分の1の労働者が主要な仕事で日常的に時間外労働を行っていた。日常的に時間外労働を行っている女性の44%、男性の28%が残業手当を受け取っていなかった。
 以上から、多くの労働者が望まないにもかかわらず時間外労働を行っている様子がうかがえる。では、なぜ労働者は残業を断らないのだろうか(残業を断ることは違法ではない)。オーストラリアでは労働者は、まじめにキャリアを考えている「真面目な労働者」と、仕事より家庭を重視する「家庭重視の労働者」に分類されがちである。後者には、「ダディ・トラック」や「マミー・トラック」が用意され、昇進などが遅れる傾向にある。こうした背景が、労働者に残業を断りにくくさせているのであろう。

過労死論議も

 ACTUの調査結果は、1980年代後半に日本で展開された労働時間をめぐる論議との比較をもたらした。オーストラリアでは働き過ぎと死(過労死)との明白な関連性はまだ大きな関心となっていないが、類似点が多く見られる。日本では、立法が過度な残業を断る労働者の権利を十分に支持していたとはいいがたく、さらに文化的にも残業を断ることが難しい状況にあった。オーストラリアでは、労使関係改革により労働時間に対する規制がなくなり、1990年代初頭には多くの労働者が賃上げや年俸制の代わりに労働時間に関する規制を放棄した。
 このように政府による規制が減少し、使用者が新たな労働者を雇うより時間外労働の利用を好み、労働者が残業を断りにくいといった状況は1980年代の日本と非常に似ている。
一方で、いくつかの企業倒産に伴い経営者のモラルや意思決定について大きな疑問が呈されるようになっている。倒産した企業では、経営者が倒産することを認識しながら莫大な賞与を得ていた。こうした事態が、経営者の意思決定や長時間労働文化に対する懸念を引き起こし、政府に労働時間の規制に踏み切らせることも考えられる。

2002/01/01