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総合規制改革会議「第3次答申」(重要検討事項部分)に対する厚生労働省の考え方【厚生労働省】

総合規制改革会議「第3次答申」(重要検討事項部分)に対する厚生労働省の考え方

平成15年12月24日
厚生労働省

1 基本的考え方
 ○このたび、総合規制改革会議において、医療・福祉、雇用・労働などの規制改革に関する「第3次答申」が決定された。
 ○厚生労働省としては、経済社会システムの構造改革が進む中で、規制改革の重要性は充分認識しており、サービスの質の向上、利用者の選択の拡大や労働者が安心して持てる能力を十分に発揮できることにつながるような規制改革については、これまでも積極的に対応してきているところである。
 ○一方、厚生労働行政の分野は、サービスや規制の内容が国民の生命・生活や労働者の労働条件などと密接に関わるものであり、また、そのサービスの大半が保険財源や公費で賄われているなど、他の分野とは異なる性格を有していることから、規制改革を進めるに当たっては、経済的な効果だけでなく、
  ①サービスの質や安全性の低下を招いたり、安定的な供給が損なわれることがないか、
  ②逆に、過剰なサービス供給が生じる結果、保険料や公費の過大な負担とならないか、
  ③規制を緩和した結果、労働者の保護に欠けることとなったり、生活の不安感を惹起させないか、
などの観点から、それぞれの分野ごとに慎重な検討を行うことが必要であると考えている。
 ○今回の「第3次答申」のうち、「具体的施策」に盛り込まれた事項については、これまで、厚生労働省としても総合規制改革会議側と真摯な議論を重ねてきた結果得られた成果であり、その着実な実施に邁進してまいりたい。
 ○しかしながら、今回の「第3次答申」のうち、「問題意識」や「現状認識及び今後の課題」等に掲げられている事項については、その基本的な考え方や今後の改革の方向性・手法・実効性において、当省の基本的な考え方と見解を異にする部分が少なくない。
 ○以上を踏まえ、今般、総合規制改革会議により「第3次答申」が公表されるに当たり、特に重要とされている「重要検討事項」の「現状認識及び今後の課題」等に掲げられている事項について、これに対する当省の考え方を以下の通り整理し、公表することとしたものである。なお、7月の「規制改革推進のためのアクションプラン・12の重点検討事項に関する答申」で取り上げられた以下の①~⑦の主張については、基本的には総合規制改革会議側の考え方にも変化がないことから、当省の考え方も従来からのものと同様である。

2 個別事項についての総合規制改革会議の主張と厚生労働省の考え方 (※労災保険民営化問題関係のみ抜粋)

総合規制改革会議の主張(要約) 厚生労働省の考え方
⑧労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進など
(1)労災保険
 
【現状認識】
○労災保険の給付は、労働基準法上の規定を上回る水準に拡大してきた結果、他の公的保険の水準を上回っており、これらとの役割分担が大きな課題となっている。○労災保険の保険料率は、保険である以上、業種別の労災発生リスクに応じ給付と負担は均衡すべき。そうでなければ、使用者の労災防止へのインセンティブを損ねる。○労災保険は7兆円の積立金を有しており、労災病院等の事業を拡大してきた。
○現在の労災保険の水準は、ILO条約を始めとした国際水準を満たす水準として設定されているところであり、またそもそも制度趣旨の異なる他の社会保険との比較で論じる意義は乏しい。○社会保険たる労災保険においては、業種別に厳密に収支均衡する必要はなく、総合規制改革会議の主張は社会保険の理論を無視している。また、災害防止は、一義的には、国の災害防止施策が担うべきものである。

○労災保険の積立金は、全額将来の年金給付に充てられるための任準備金であり、余剰金ではなく、労働福祉事業とは無関係。

【今後の課題】
○労災保険の仕組みは自動車損害賠償責任保険と多くの共通点がある。使用者の強制加入及び保険者の引受義務を維持しつつ、何が労災に相当するかという認定基準は国が定め、それに基づく労災保険の管理・運営は民間事業者が行うこととすべきであり、労災保険の民間開放・民間への業務委託の可能性について、幅広く検討すべきであると考える。
○労災保険の民営化(民間開放)については、当省からの民営化できないとの考え方に対し適切な反論がなされず、また、重大な事実誤認の指摘にもかかわらず、総合規制改革会議独自の見解を公表されたことは、極めて遺憾である。○労災保険の民営化(民間開放)は、以下のとおり、如何なる観点からみても労働者保護の観点から根本的に問題があり、できないと考える。
 (1) 自賠責保険においては自賠責保険に加入していないと検を通らないことから加入が担保されているが、労災保険ではのような加入を担保する仕組みがない。
  民間保険会社では加入を強制できず、また、国が特定の民間保険会社との契約を強制することはもとより、滞納処分もできないため、使用者の強制加入及び保険者の引受義務を維持したとしても、未加入・未納事業場が続出することは避けられず、そのような事業場で被災した労働者は補償を受けられない。
 (2) 交通事故と異なり、過労死等外形的に業務上の災害かどうか判断が難しい新たな労災事案が増加する状況で、事業場への立入権限のない民間保険会社では、実態を踏まえた労災認定が困難である。
 (3) 仮に労災保険の民営化を行った場合には、上記()のとおり未加入事業場が続出するが、こうした未加入事業場の被災労働者に対しても補償を確実に行うためには新たに国の補償事業が必要となる。また、自賠責と異なり長期にわたる年金給付があることからも民間保険会社の破綻に備えた仕組みなどが新たに必要となる。
  このようなことから、民営化により、かえって非効率化し、ひいては保険料率の大幅な引上げのおそれが大きい。なお、日本の労災保険の保険料収入に占める管理運営費の割合は5.2%だが、民間開放を行っている唯一の国であるアメリカの民間労災保険の管理運営費の割合は40%近い。○以上のような問題点にかんがみ、学識経験者、使用者団体及び労働組合の代表から成る審議会、日本医師会等の諸団体から、それぞれの立場を超えて、「労災保険の民営化(民間開放)」について強い反対意見が出されているところであり、また、過労死や雇用不安が問題となっている現下の厳しい経済社会情勢にかんがみれば、このような検討を行うこと自体、労働者を始めとした国民の無用の不安感を煽ることが避けられないことから、労災保険の民間開放について検討することは不適切であると考える。
(注)本年11月26日付けで、労働政策審議会労災保険部会から、公労使全員一致により、「労災保険の民間開放の促進」について反対である旨の意見が表明されている。
○労働者保護等の観点から、労災保険、雇用保険等の未手続事業所のうち故意にその加入手続を怠っているものについて、名称を公表するなどの制裁措置を講ずべきである。 ○労災保険及び雇用保険については、加入勧奨に従わないときは職権成立手続を行うほか、雇用保険については、職権による被保険者資格の取得及び労働者自身による被保険者資格の確認が可能であることから、労働者保護は十分に図られているため、未手続事業所名の公表などの制裁措置を講ずる必要はない。

○なお、雇用保険及び社会保険の未手続事業所名の公表については、アクションプランワーキンググループにおける十分な議論を行わずに記述されており、総合規制改革会議における議論、答申の在り方として、極めて遺憾である。

 

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2003/12/24