過労死に関する資料室


資料等提出依頼について(回答)

平成15 年11 月28 日

総合規制改革会議御中

厚生労働省

資料等提出依頼について(回答)

  平成15 年11 月20 日付け標記依頼について、下記のとおり回答いたします。

1.貴省の説明によれば、「国が保険者であるからこそ未加入の強制適用事業所に対して職権による強制権限を行使しうるのであり、労災保険を民営委託した際には強制権限の発揮は困難である」とのことであるが、労働基準法上の災害補償を担保する制度としての労災保険制度を維持しつつ、労災保険の運営を民間に委託することとした場合(法律上強制加入等の制度は現行どおり)、労働者保護の立場から、未手続きの強制適用事業所の発掘を民間が行い、強制権限の行使は官が行うことは可能と思われるがどうか

(回答)
1 そもそも、11月10日のアクションプラン実行WGにおいては、貴会議が「労災保険の民営化」を主張されたのに対し当省から反論等を行ったものであり、御質問の「労災保険の民営委託」とはどのようなものか判然としないところ、労災保険の民営化については、
 ① 自賠責保険における車検制度のように加入を担保する仕組みがなく、未加入・未納事業場が続出するおそれがあること
 ② 民間運営では、事業場への強制力をもった立入ができず、特に、外形的な原因把握が困難な過労死、過労自殺などに対し、職場の実態を踏まえた的確な労災認定が困難であること
 ③ 監督・安全衛生行政と一体として運営されなければ、災害時の補償と併せた迅速かつ的確な再発防止対策の実施の確保が困難であること
 ④ 民営化により、かえって非効率化し、ひいては保険料の大幅な引上げのおそれがあること
から、労働者保護の後退が必至であり、困難である。

2 また、御質問のような実施方法については、民間保険会社がどのような方法で未手続事業を発掘し、労働基準監督署等がどのような方法で強制権限を行使するのかが明らかでない段階でコメントすることは困難である。
  しかし、仮に、例えば、ある民間保険会社が、同社の運営する労災保険に加入しない事業所について労働基準監督署に連絡を行うこととした場合においては、以下の理由から強制権限を行使することはできないので、加入や徴収について後退が避けられず、不適当である。
 ① 国が保険者であれば、国の保険について保険関係を職権で成立させることができるが、民間保険会社が保険者の場合、契約を結ぶ保険会社の選択は事業所の自由であるため、事業所と特定の保険会社との契約を労働基準監督署が職権で成立させることは不可能であること。
 ② 特定の民間保険会社の労災保険制度に加入している事業所が保険料を支払わない場合において、民事訴訟・民事執行の手続によらずに、国が滞納処分を行い、保険料を徴収し、それを特定の民間保険会社に支払うことは不可能であること。

3 加えて、当該事業所を「発掘」した特定の民間保険会社の労災保険に加入することについて、労働基準監督署は当該事業所を強制することはできないことから、民間保険会社が未手続事業所を「発掘」するインセンティブはなく、加入促進は困難であると考えられる。

2.米国はILO 条約を批准しており、一部の州において労災保険事業を民間委託しつつ、災害補償等に関する国際基準も満たしていると思われる。米国と我が国との労働基準監督行政、労災保険制度の相違点等ご教示いただきたい。また、米国では労災保険の民営化が可能であるにもかかわらず、我が国では民営化ができないとされる具体的な理由を両国の制度を対比してお示しいただきたい。

(回答)
1 日本はILO第81号条約(工業及び商業における労働監督に関する条約)、ILO第102号条約(社会保障の最低基準に関する条約)及びILO第121号条約(業務災害の場合における給付に関する条約)を批准するとともに、労災保険のほとんどの給付水準がILO第121号勧告(業務災害の場合における給付に関する勧告)の水準に達しており、災害補償等に関する国際水準を満たしているところである。
これに対し、米国では、上記のいずれの条約も批准していない。
したがって、これらの条約に関し、御質問の「米国はILO条約を批准しており」という記述は、事実誤認である。

2(1) 米国の労働基準監督については、我が国の例えば労働基準法のように労働条件について全国一律の労働条件を定める法制度とは異なり、州ごとに特   別の基準を設けることのできる法制度となっていることなどから、両国の労働基準監督制度について一概には比較できない。
 (2) 米国の労災補償については、労災補償法は州法に委ねられており、各州の労災補償法により、使用者が労働災害につき労働者に対し補償責任を負うこと、及び、その履行を担保するために使用者に保険に加入することを義務づけている。
その方法については、ほとんどの州で、州の基金による保険制度、民間保険又は自己保険のいずれかへの加入を義務づけているが、民間保険が認められず、州基金による保険制度のみ設けられている州もある。
   また、我が国の労災保険は、
  ① 労働基準法に定められた、最低基準の労働条件としての使用者の災害補償責任
  ② 国際水準を満たす給付内容の災害補償
を担保するための保険制度であるのに対し、アメリカの労災保険が担保する使用者の災害補償は、各州法により定められているため、災害補償のあり方や、給付水準が州により異なるものである。

3 このように、ILO条約の批准状況の相違、米国においても民間参入がなされていない州が存在すること、また、災害補償責任のあり方の違い等、日米における労災保険を比較するに当たっての前提条件が違うことから、米国との比較で、議論することは困難である。

3.貴省の説明によれば、強制適用事業所であるにもかかわらず、事業主が手続をとらない場合には、労働者本人が公共職業安定所に申し出て職権による強制権限を行使しているとのことであるが、その労働者が申し出た件数及びそのうち実際に職権を行使して手続をとらせた件数をご教示いただきたい。

(回答)
1 労働保険の適用事業所であるにもかかわらず、事業主による手続がなされていない場合に、当該事業所の労働者から労働基準監督署や公共職業安定所に相談・通報等があれば、事実関係を把握した上で、労働保険の加入手続を指導する等の適切な対応をしているところであるが、労働者からの相談件数及び職権で手続をとらせた件数についてのデータはない。

2 なお、雇用保険の被保険者資格について、労働者が公共職業安定所長に対して確認の請求をすることができるところ、労働者の申し出た件数は不明であり、また、多くの場合は指導に応じて事業主により手続が取られていると聞いている。
  平成14年度において、試算によれば、公共職業安定所長が労働者からの請求により被保険者資格を確認した件数は約640件(※1)、公共職業安定所長が職権を行使して被保険者資格を確認した件数は約390件(※2)である。

※1 大、中、小規模の都道府県労働局(各3局)の公共職業安定所を1つずつ抽出し、この9の公共職業安定所において平成14年度に労働者からの確認請求により資格取得の確認が行われた件数を調べ(72件)、資格取得件数全体に占める割合を計算し、全国の労働者からの確認請求により資格取得の確認が行われた件数を試算した件数である。
※2 大、中、小規模の都道府県労働局(各3局)の公共職業安定所を1つずつ抽出し、この9の公共職業安定所において平成14年度に職権により資格取得の確認が行われた件数を調べ(44件)、資格取得件数全体に占める割合を計算し、全国の職権により資格取得の確認が行われた件数を試算した件数である。

4.貴省の説明によれば、事業所が悪意等により労働保険を未手続きであるなどの悪質な場合はその事業所を公表するが、勧告によって是正した事業所は公表しないとされている。どのような場合が「悪質」とされ公表されるのか、具体的な事例を挙げてご教示いただきたい。また、実際に公表した事例はどの程度あるのかご教示いただきたい。

(回答)
  11月10日のヒアリングの際は、例えば賃金不払残業を行わせている企業名について、悪質なもので送検したものについては、公表する場合がある旨を述べたものである。
  労働保険の未手続事業所については、公表に関する法令上の規定もないところであり、労働基準監督署等が再三にわたり加入手続の勧奨を行ったにもかかわらず手続を行わない場合は、労働基準監督署等が職権成立手続を行うこととなるため、企業名を公表する必要はないと考えており、公表した事例もない。

PDFファイルはこちら

2003/11/28