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規制改革の推進に関する第3次答申 -活力ある日本の創造に向けて- 2 労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進など

2 労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進など
(1)労災保険

【現状認識】

 労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)は、使用者(事業主)を加入者、政府を保険者とし、すべての産業について、業務上の理由に基づく災害補償を迅速に行うことを目的に、昭和22 年に設立された強制保険である。
 他方、政府としてこれまでも精力的に取り組んできている労働市場の事前規制の緩和は、労働者にとっての社会的安全網(セーフティーネット)の整備と一体的に行われることが規制改革の原則であるが、政府が所掌する損害賠償責任保険が適正かつ効率的に運営されているか否かは、その社会的安全網としての役割に大きくかかわっている。
 労災保険の本来の目的は、使用者の災害補償責任を確実に履行するための責任保険であり、労災保険の給付がなされれば使用者は労働基準法(昭和22 年法律第49 号)の災害補償責任を免れるという対応関係があった。
しかしながら、現在の労災保険の給付や対象範囲は、災害に伴う直接の療養費や休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付のみならず、各給付の上乗せ支給を行う特別支給金や介護補償給付の導入、給付の年金化などを通じ、次第に労働基準法上の規定を上回る水準に拡大し、結果として、医療や年金・介護等の社会保障給付を上回る水準を保障するに至っている。
 こうした中で、別途制度の充実が図られてきた医療や年金・介護等の公的保険との関係で、労災保険がどのような役割を担うかということも、大きな課題となってきている。
また、労災保険は、社会保険であっても、「保険」である限り、その保険料率は、本来、使用者の労災発生のリスクに応じた「給付と負担の均衡原則」の下で設定されるべきである。
仮にリスクの高い使用者の保険料負担の一部を、リスクの低い使用者の負担で賄えば、使用者間の負担の公平性のみならず、リスクの高い使用者の労災防止へのインセンティブを損ね、本来の労働者保護の目的を果たせないことになる。
 さらに、労災保険は、充足賦課方式の下、7 兆円を超える積立金を有しており、労災病院の経営等、直営の事業活動も拡大されてきた。
労災病院は、平成16 年度から独立行政法人化することが決定しているものの、平成9 年の特殊法人の整理統合化に関する閣議決定に基づく労災病院の統合・民営化や労災保険からの出資金の削減等の改革は十分なものとは言えない。

【具体的施策】

 ① 労災保険強制適用事業所のうち未手続事業所の一掃(職権による成立手続の徹底等)【平成16 年度中に結論】
  労災保険の現行制度の下では、原則として、ある事業所が労働者を1人でも使用すれば、当該事業所は「強制適用事業所」とされ、事業が開始された日から自動的に保険関係が成立する。
このため、保険関係成立届を届け出ていない(保険料未納付である)事業所で生じた労災事故についても、労働者保護の観点から、被災労働者は給付を受けることができる仕組みとなっている。
  こうした中で、すべての強制適用事業所のうち、現に保険関係成立届を届け出ている事業所数は約270 万であるが、他方、未手続事業所は、最大限約60 万(全体の約14%)存在するとされている(平成13 年度推計値・厚生労働省提出資料より)。
このように、労災保険は、本来、強制適用保険制度であるにもかかわらず、事業主の中にはそれを十分に認識していないケースや、未手続事業所に対し労働基準監督署の職権による成立手続が十分に行われていないことなどにより、事業所間の公平性等が保たれていない。
  なお、使用者が故意または重過失により労災保険に加入していない期間に事故が発生した場合には、療養開始後3年以内の場合に限って、保険料のほか、保険給付額の全部又は一部(最大限40%程度)を徴収することとなっている。
法律上、保険給付に要した費用の全部を徴収できるにもかかわらず、そのような運用がなされていないことや、故意又は重過失のある場合を限定的に解していることについて、厚生労働省は「使用者に対して経済的な過大な負担を強いることや、労災保険への加入手続が行われないこと自体を防ぐため」としているが、こうしたことが、一部使用者のモラルハザードを助長し、結果的に労災事故防止の妨げとなっていると考えられる。
  したがって、こうした未手続強制適用事業所を一掃するため、周知・啓発や加入勧奨にとどまらず、労働基準監督署の職権等の積極的な行使などの措置を講ずべきである。

 ② 業種別リスクに応じた適正な保険料率の設定【平成16 年度中に結論】  現在の労災保険の保険料率については、業種別に設定されているが、当該業種別のリスクを正確に反映したものとはなっていない。
特に、事務職等の「その他各種事業」と「建築事業」などのサービス業については、給付に対して過大な保険料負担となっている。
  労災保険の役割として、労災事故のリスクが高い業種ほど保険料率を高く設定し、業種ごとの事業主集団の労働災害防止へのインセンティブを促進することが挙げられるが、現行のような大幅な業種間の調整を行うことにより、そうしたメカニズムが十分に機能するものとはなっていない。
  したがって、事業主の労働災害防止へのインセンティブをより高めるとの観点も踏まえ、業種別の保険料率の設定について、業種ごとに異なる災害リスクも踏まえ、専門的な見地から検討し、早急に結論を得べきである。
  また、保険料率は審議会等のプロセスを経て決定されているとはいえ、当該審議会等の情報開示は不十分であり、どのような計算の下で、将来債務の額等が算定され、料率改定が行われたのかなどについて、具体的に明記すべきである。

 ③ 労働福祉事業の見直し【平成16 年度以降逐次実施】  労働福祉事業として行われている労災病院については、労災患者数の占める割合が年々低下しており(入院6%、通院3.4%。
(平成9 年度。
総務庁行政監察局行政監察結果報告書(平成11 年12 月)より))、専門病院としての役割は低下している。
  こうした状況にかんがみれば、労災病院事業を中心に労働福祉事業について、適切な事業評価を実施した上で、逐次見直しを図るべきである。

【今後の課題】

 ① 労災保険の未手続事業所名の公表など  労働者保護等の観点から、労働基準監督署の職権等を積極的に行使する以前の措置として、労災保険の未手続事業所のうち故意にその加入手続を怠っているものについては、その名称を公表するなどの制裁措置を講ずべきである。
また、同様の趣旨から、雇用保険、社会保険の未手続事業所に対しても、同様の措置を講ずべきである。

 ② 労災保険の民間開放の検討  使用者の災害補償に備える労災保険の仕組みについては、民間の損害保険(自動車損害賠償責任保険)と多くの共通点を有している。
また、既に労災保険の上乗せ補償の保険は民間会社で提供されている。
  仮に、労災保険の民間開放がなされたとした場合、未手続事業所が増加するなど、給付が十全に行われなくなるのではないかといった懸念も指摘されている。
しかしながら、こうした懸念に対しては、未手続事業所への経済的ペナルティーの強化と併せて、限られた人数の労働基準監督署の人員を補完する上でも、民間事業者を積極的に活用することで、未手続事業所の減少につながるものと考える。
  労災保険に関して、国と民間との適正な役割分担の在り方としては、何が労災に相当するかといった基本的な概念や認定基準については国が労働基準法に基づき定め、他方、それに基づく労災保険の管理・運営については民間事業者が行うこととすべきである。
その結果、国は本来の労働者保護のための監督業務に専念できることになるため、メリットは大きいと考えられる。
  「労災から労働者を保護する」という労災保険の本来の目的が十分に担保されるという前提の下、政府の直轄事業方式にこだわらず、現行の使用者の強制加入原則及び保険者の引受義務を維持しつつ、労災保険の民間開放・民間への業務委託の可能性について、厚生労働省内の議論や労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会のみならず、関係各省、有識者、実務家等を交え、幅広く検討すべきであると考える。
  使用者は、労災保険の給付に加えて業務災害を理由とする損害賠償を請求(労災民訴)される場合があるが、この際、労災保険給付と損害賠償との調整が行われず、労災保険料負担に加え、損害賠償の支払いという二重の負担が生じることがある。
このように、国の労災保険だけでは使用者の損害賠償責任を完全に担保できないため、労災保険料負担に加えて民間の労災保険に加入する使用者も多いが、そうした意味では、労災の損害賠償負担に関し、既に民間の保険も一定の役割を果たしていると言える。
  なお、労災保険の民間開放の検討は、労働災害に関する安全網(セーフティーネット)の改善や、事前規制緩和と事後チェック及び安全網の整備を一体として進めることに貢献するとは考えられないので反対である、という少数意見(清家委員)があった。

2003/12/22