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心身むしばむ長時間労働【東奥日報】

 「働き過ぎ社会」の悲劇が後を絶たない。今月十日朝、三重県鈴鹿市の東名阪自動車道で起きた大惨事もその一つだ。帰省ラッシュの渋滞で停車中の車の列に大型トレーラーが追突して炎上。五人が死亡し、六人がけがをする大事故が発生した。

 この事故で、大型トレーラーの運転手が現行犯逮捕されたが、運転手は「居眠り運転をしていた」と供述している。関東で渋滞に巻き込まれ、休憩も取らずに運転しかなり疲れた状態だったようだ。

 運転手の勤務実態などを調べたところ、この運転手は茨城県日立市-大阪市間の夜通し運転を三日連続でしていた。運輸業界の競争激化で長時間運転にさらされている勤務実態が分かった。徹夜で運転するなど過重労働が原因で疲労し、このような大きな事故につながるケースが相次いでいる。

 しかし、トラックやトレーラーなどの大型車に居眠り運転で暴走されたのでは、まさに「走る凶器」だ。無事に目的地に向かおうとしているドライバーはたまったものではない。

 働き過ぎがもとで自殺する人や、心筋梗塞(こうそく)などで突然死する「過労死」も増えている。企業社会のひずみである働き過ぎ社会の犠牲者を生み出してはならない。未然防止に向けた企業、行政の一層の努力を求めたい。

 過労運転では、今年七月に書類送検された宮城県田尻町のトラック運転手の例もひどい。運転手は本県方面を担当していたが、居眠り運転で事故を起こす前の一カ月間はほとんど帰宅せず、ほぼ毎日会社と本県を往復。サービスエリアなどで数時間の仮眠をとっていただけという。

 これでは、心身ともに疲労困ぱいしてしまう。意識がもうろうとして睡魔に襲われ、追突や正面衝突などの大きな事故を引き起こすことになる。恐ろしいことだ。

 過労職種は、運転手だけに限らない。IT(情報技術)関連の技術者、医師のほか、金属プレス作業などの技能者ら広範囲にわたっている。

 深夜までの長時間労働や不規則な勤務が続き、心身ともに消耗して死に至る過労死は、働き過ぎ社会日本の代名詞として英語の辞書にも登場しているほどだ。

 過重労働が原因で体調を崩し仕事のストレスをためて、自殺に追い込まれる人も少なくない。昨年一年間の自殺者は三万一千四十二人で、四年連続で三万人の大台を超えたが、この中には長い労働時間にストレスを強め自ら命を絶った「過労自殺者」もかなりの数に上るとみられている。

 拘束時間が長く深夜労働などに従事している人の健康状態は極めて良くない。脳や心臓疾患をはじめ、肝機能、血圧、血糖などの異常が報告されている。

 深夜などの不規則勤務に加え、強いストレスや運動不足、食事の偏りなど健康を害する要因があまりにも多過ぎる。こんな長年の積み重ねが、疲労をため精神的にも不安定になって自殺に追い込まれる、と専門家は指摘している。

 しかも、長引く不況でリストラやサービス残業など労働環境は厳しさを増す一方だ。深夜まで働いても残業代を払わない企業も増えている。支払いを要求すると「あしたから来なくていいと言われた」といった労働相談が、関係当局に数多く寄せられている。

 身を粉にして働いた揚げ句が、賃金不払いと解雇では、働く者はどこに救いを求めればいいのか。長時間のサービス残業を強いる企業は、すぐ改めてほしい。昨年暮れ、過労死の認定基準が緩和されたが、いくら基準を緩めても企業の考え方が変わらない限り過労死などの悲劇に終止符を打つことはできない。従業員の健康管理に十分な配慮を望みたい。

2002/08/20