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精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告について(労働省労働基準局補償課職業病認定対策室平成11年7月30日発表)

精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告について

発  表:平成11年7月30日(金)
担  当:労働省労働基準局補償課職業病認定対策室
電 話 03-3593-1211(内線5463)
03-3502-6750(夜間直通)

1 業務による心理的負荷を原因として精神障害を発病し、あるいは自殺したとして労災請求が行われる事案が近年増加している。
労働省ではこのような現状を踏まえ、労災請求事案の処理を直接行う全国の労働基準監督署が精神障害等の労災請求事案を迅速・適正に処理するための判断 のより どころとなる一定の指針を策定するため、平成10年2月から精神医学等の専門家9名で構成される「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」(座 長:原田憲一元東京大学教授)を開催して、精神障害等の労災認定について、精神医学等の専門的 見地からの検討を行ってきたところであるが、その検討結果 が取りまとめられた。

2 労働省としては、この検討結果を踏まえ、精神障害等に係る業務上外の判断のた めの指針を示した通達を発出する等所要の措置を講ずることとしている。

3 検討結果の概要は別紙1のとおり。

4 参集者は別紙2のとおり。

(別紙1)

精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告の概要

1 対象とする精神障害
労災補償の対象とする精神障害については、従来の器質性、内因性、心因性の区分及びその区分に従って限定的に取り扱うことを改め、原則として国際疾病 分類第 10回改訂版(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章に示される「精神および行動の障害」とすることが適切であること。

2 精神障害の成因
精神障害の成因を考えるに当たっては、「ストレス-脆弱性」理論に依拠することが適当であること。
「ストレス-脆弱性」理論とは、環境からくるストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方である。ス トレス が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破綻が生ずる。
精神障害を考える場合、あらゆる場合にストレスと脆弱性との両方を視野に入れて考えなければならず、その上、労災請求事案では、ストレスを業務に関連するストレスと業務以外のストレスを区別する必要があること。

3 精神障害の診断等
精神障害の診断に当たっては、ICD-10作成の専門家チームが作成した「臨床記述と診断ガイドライン」(以下「ICD-10診断ガイドライン」という。)に基づき実施されるべきであること。
労災請求事案についての確定診断に当たっては、客観、公平を期するためにも、複数の専門家の合議等により、ICD-10診断ガイドラインに沿って検討、確定される必要があること。

4 業務によるストレスの評価
(1)出来事の評価
第一線の行政機関で斉一的に、適切に対応するために、業務によるストレスの強度を客観的に評価する基準を示す必要があることから、ストレスの強度の客観的評価に関する多くの研究を基に、独自に別表1及び別表2のストレス評価表を作成したこと。
(2)出来事に伴う変化の評価
業務によるストレスとの関連で精神障害の発病を考える場合、ある出来事に続いて、またはその出来事への対処に伴って生じる変化によるストレスの加重も重要であること。
なお、常態的な長時間労働は精神障害の準備状態を形成する要因となっている可能性があるので、出来事の程度の評価に当たって、特に常態的な長時間労働が背景として認められる場合、出来事自体のストレス強度はより強く評価される必要があること。
(3)出来事によるストレスの評価期間
出来事の評価を行う場合、当該精神障害発病前概ね6か月以内の出来事を評価することが妥当であること。

5 業務以外のストレス及び個体の脆弱性の評価
業務以外の個人的なストレス要因については、別表2により評価すること。
また、個体側の脆弱性については、既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向等から精神医学的に判断すること。

6 自殺行為
労働者災害補償保険法第12条の2の2第1項は、労働者の「故意」による負傷、疾病、障害、死亡については保険給付を行わないと定めており、その具体 的運用に関しては、業務に起因するうつ病等により「心神喪失」の状態に陥って自殺した場合に限り、故意がなかったと見るのが従来の考え方であったが、精神 障害に係る自殺については、「精神障害によって正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害 されている状態」で行われた場合には、同条にいう故意によるものではないと解するのが妥当であること。

(別紙2)

精神障害等の労災認定に係る専門検討会

〔参集者〕 牛島 定信 (東京慈恵会医科大学教授)
大石 忠生 (桐蔭横浜大学教授)
大熊 輝雄 (国立精神・神経センター名誉総長)
田中 清定 (関東学園大学教授)
(座長) 原田 憲一 (元東京大学教授)
保崎 秀夫 (常磐大学教授)
山口浩一郎 (上智大学教授)
山崎喜比古 (東京大学助教授)
山本 和郎 (慶応大学教授)
(五十音順)

(別表1)
職場におけるストレス評価表

出来事
の類型

(1)平均的ストレス強度

(2)直面した出来事を
評価する視点

(3)(1)の出来事に伴う
変化を評価する視点

具体的出来事

ストレス強度

ストレス強度を変更する際
の着眼事項

出来事に伴う問題、
変化への対処等


事故や
災害の
体験

大きな病気やケガをした

被災の程度、後遺障害の
有無・程度、社会復帰の
困難性等


労働時間等の変化
残業時間、休日労働 等の増加の程度

○仕事の量の変化
・仕事量、仕事密度の
増加の程度

○仕事の質・責任の変化
・仕事の内容・責任の
変化の程度、経験、
適応能力との関係等

仕事の裁量性の欠如
他律的な労働、強制
性等

職場の物的・人的環境
の変化
┌・
騒音、暑熱、多湿、
│ 
寒冷等の変化の程度
└・職場の人間関係の
変化

会社の講じた支援の具
体的内容・実施時期等
・訴えに対する対処、
配慮の状況等

○その他(1)の出来事に
派生する変化

悲惨な事故や災害の体験
(目撃)をした

事故や被害の大きさ、
恐怖感、異常性の程度等


仕事の
失敗、
過重な
責任の
発生等

交通事故(重大な人身事故
、重大事故)を起こした

事故の大きさ、加害の程度
、処罰の有無等

労働災害(重大な人身
事故、重大事故)の発生に
直接関与した

事故の大きさ、加害の程度
、処罰の有無等

会社にとっての重大な
仕事上のミスをした

失敗の大きさ・重大性、
損害等の程度、ペナルティ
の有無等

会社で起きた事故
(事件)について、
責任を問われた

事故の内容、関与・責任の
程度、社会的反響の大きさ
、ペナルティの有無等

ノルマが
達成できなかった

ノルマの内容、困難性・
強制性・達成率の程度、
ペナルティの有無、
納期の変更可能性等

新規事業の担当に
なった、会社の建て直しの
担当になった

プロジェクト内での立場、
困難性の程度、能力と
仕事内容のギャップの
程度等

顧客とのトラブルが
あった

顧客の位置付け、
会社に与えた損害の内容、
程度等


仕事の
量・質
の変化

仕事内容・仕事量の
大きな変化があった

業務の困難度、能力・経験
と仕事内容のギャップの
程度等

勤務・拘束時間が
長時間化した

変化の程度等

勤務形態に変化があった

交替制勤務、深夜勤務等
変化の程度等

仕事のペース、活動の変化
があった

変化の程度、強制性等

職場のOA化が進んだ

研修の有無、強制性等


身分の
変化等

退職を強要された

解雇又は退職強要の経過等
、強要の程度、代償措置の
内容等

出向した

在籍・転籍の別、出向の
理由・経過、不利益の程度

左遷された

左遷の理由、身分・職種・
職制の変化の程度等

仕事上の差別、不利益
取扱いを受けた
差別、不利益の程度等

役割・
地位等
の変化
転勤をした 職種、職務の変化の程度、
転居の有無、単身赴任の
有無等
配置転換があった 職種、職務の変化の程度、
合理性の有無等
自分の昇格・昇進があった 職務・責任の変化の程度等
部下が減った 業務の変化の程度等
部下が増えた 教育・指導・管理の負担の
程度等

対人
関係の
トラブル
セクシュアル
ハラスメントを受けた
セクシュアルハラスメント
の内容、程度等
上司とのトラブルがあった トラブルの程度、いじめの
内容、程度等
同僚とのトラブルがあった トラブルの程度、いじめの
内容、程度等
部下とのトラブルがあった トラブルの程度、いじめの
内容、程度等

対人
関係の
変化
理解してくれていた人の
異動があった
上司が変わった
昇進で先を越された
同僚の昇進・昇格があった
 総 合 評 価 






(注)
・(1)の具体的出来事の平均的ストレス強度は☆で表現しているが、この強度は平均値である。また、ストレス強度Ⅰは日常的に経験するストレスで一般的に 問題とならない程度のストレス、ストレス強度Ⅲは人生の中で希に経験することもある強いストレス、ストレス強度Ⅱはその中間に位置するストレスである。
・(2)の「直面した出来事を評価する視点」は、出来事の具体的態様、生じた経緯等を把握した上で、「ストレス強度を変更する際の着眼事項」に従って平均的ストレス強度をより強くあるいはより弱く評価するための視点である。
・(3)「(1)の出来事に伴う変化を評価する視点」は、出来事に伴う変化等がその後どの程度持続、拡大あるいは改善したのかについて具体的に検討する視点である。各項目は(1)の具体的出来事ごとに各々評価される。
・「総合評価」は、(2)及び(3)の検討を踏まえたストレスの総体が客観的にみて精神障害を発病させる危険のある程度のストレスであるか否かについて評価される。

(別表2)
職場以外のストレス評価表

出来事の
類型

具 体 的 出 来 事

ストレス
の強度


自分の
出来事

離婚又は夫婦が別居した

自分が重い病気やケガをした又は流産した

自分が病気やケガをした

夫婦のトラブル、不和があった

自分が妊娠した

定年退職した


自分以外の
家族・親族
の出来事

配偶者や子供、親又は兄弟が死亡した

配偶者や子供が重い病気やケガをした

親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た

親族とのつきあいで困ったり、辛い思いをしたことが
あった

家族が婚約した又はその話が具体化した

子供の入試・進学があった又は子供が受験勉強を始めた

親子の不和、子供の問題行動、非行があった

家族が増えた(子供が産まれた)又は減った
(子供が独立して家を離れた)

配偶者が仕事を始めた又は辞めた


金銭関係

多額の財産を損失した又は突然大きな支出があった

収入が減少した

借金返済の遅れ、困難があった

住宅ローン又は消費者ローンを借りた


事件、
事故、
災害の体験

天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた

自宅に泥棒が入った

交通事故を起こした

軽度の法律違反をした


住環境の
変化

騒音等、家の周囲の環境(人間環境を含む)が悪化した

引越した

家屋や土地を売買した又はその具体的な計画が
持ち上がった

家族以外の人(知人、下宿人など)が一緒に住むように
なった


他人との
人間関係

友人、先輩に裏切られショックを受けた

親しい友人、先輩が死亡した

失恋、異性関係のもつれがあった

隣近所とのトラブルがあった

(注)ストレス強度ⅠからⅢは、別表1と同程度である。

2011/11/07