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金融現場の労働実態シンポジウム報告 やっぱりあった!サービス残業! 弁護士 鳥居玲子(民主法律時報372号・2003年5月)

弁護士 鳥居玲子

 二〇〇三年四月一八日、エル・おおさかで開催された「金融現場の労働実態を考えるシンポジウム~本当にないの?サービス残業」に参加してきました。開会の直前に会場に入ったのですが、参加者名簿の職業欄に書かれた銀行員、保険会社勤務、大学院生等の様々な職業名に驚き、また、広い会場を埋めた参加者の熱気に、この問題に関する市民の関心の高さを感じました。

 このシンポジウムの目玉の一つとして、金融機関へ事前に送付した労働実態アンケートの集計結果が公表されました。金融機関にアンケートを送りつけ、ホームページにアンケート結果を公表する、回答がない金融機関についてはその旨ホームページで明らかにするという、明快かつ画期的な試みです(まだホームページ上の集計・公開には至っていないようですが)。これまで、労働者側の団体による労働者への労働実態アンケートは数知れずありましたが、使用者側に「サービス残業があると認識していますか」と単刀直入に聞いたアンケートはなかったのではないでしょうか。非常にユニークな試みだと感服しました。

 アンケートの結果ですが、労働時間の把握は、多くの金融機関で自己申告制をとっているとのことでした。また、「サービス残業は存在しないと認識している」と回答した金融機関がほとんどを占めていました。その反面、時間外労働を月四五時間以下に抑えていると回答した金融機関が相当数あったことが驚きでした。
 しかし、その労働実態はどのようになっているのでしょうか。残業時間を制限されたことにより、サービス残業、持ち帰り残業で仕事をこなすことを要求されている労働者が多いのではないかという疑念が沸きます。

 今回のシンポジウムでは、実際に金融現場で働く労働者の報告が多数あり、また過労死・過労自殺された労働者のご遺族のお話を聴くことができました。その中で、表向きのアンケート回答とはかけ離れた、サービス残業当たり前の労働実態が浮かび上がりました。例えば、残業規制のために出社時間と退社時間を予め定められ、残った仕事は自宅に持ち帰り、休日や深夜に片づけることを余儀なくされ、とうとう過労自殺に追い込まれた銀行員の遺族のお話がありました。また、たしか保険会社の方のお話だったと思いますが、毎晩一定の時間になると、オフィス全体が消灯となるため、やむなく非常口の緑色の明かりの下で打ち合わせをしているという、笑えない話もありました。

 残業規制と言っても、仕事量と無関係に勤務時間だけを制限したものでは意味がありません。一人あたりの仕事量に配慮せず、残業時間のみを制限すれば、必然的にサービス残業・持ち帰り残業を余儀なくされ、その労働実態を覆い隠すことにもなるのですから、かえって労働者の負担となるのではないでしょうか。サービス残業は長時間・過密労働の温床となっているといわれますが、今回のシンポジウムに参加し、このことを改めて実感しました。

 金融現場のとんでもない労働実態の報告にあきれ、苦笑いする一方、過労死・過労自殺された労働者のご遺族の言葉に胸を衝かれる場面もたくさんありました。現場の声は、どれも生々しく、心に迫るものがあります。参加者が次々に発言し、これらの声を受けて、最後に集会アピールが採択されました。非常に充実したシンポジウムでした。
 この不況下、金融機関に勤める労働者は、ストレスフルな長時間労働、過密労働を強制されています。社会的な責任の大きな仕事だからこそ、快適な労働環境が必要でしょう。今回のシンポジウムを通じ、金融現場での労働実態が早急に改善されることを願ってやみません。
(民主法律時報372号・2003年5月)

シンポジウム報告

2003/05/01